『Truberbrook』に見る、“面白さ”だけじゃない魅力的なゲームの作り方
世の中には面白いゲームが数多く発表されている中、その数をはるかに超える、いくつもの無名の作品もクリエイターの手によって生み出されてきました。
しかし、面白くないゲームが必ずしも魅力にも欠けているとは限らないものです。
ゲームとしての面白さ以外で人々を魅力した『Truberbrook(トルバーブルック)』は、どうやって作られたのでしょうか。
目次
アドベンチャーゲームの『Truberbrook』
今作を一言で表すなら、特に代わり映えのない、いたって普通の2Dアドベンチャーゲームと言えるでしょう。
冷戦下のドイツを舞台にした冒険譚
舞台は1960年代の田舎にある村、トルバーブルック。
いわゆる冷戦の下にあるドイツでの不思議なアドベンチャーを、紙芝居の形式で味わうことができる作品です。
ゲームシステムとしては、場面が切り替わるごとにタッチで探索を行なっていくというもので、タップ操作で気軽に遊ぶことができます。
いわゆる脱出ゲームに近い感覚の操作性で、物語を進めるためのキーとなるオブジェクトを発見することで、次のシーンへと近づくことができるというシステムです。
また、冷戦下のドイツという比較的ユニークな設定も魅力の一つとなっています。
これまで、冷戦下のアメリカやロシアの物語は何度も描かれてきましたが、冷戦下のヨーロッパ、特に東西が分割されているドイツを舞台にした作品は貴重です。
日本人には馴染みがない、60年代のドイツという設定は、ある種の異国情緒を与えてくれることになるでしょう。
アドベンチャーゲームとしての評判は低い
そんな魅力的なシナリオが目を惹くにもかかわらず、ゲームとしての面白さについてはやや難があるとも言えます。
『Truberbrook』で展開される物語は、その舞台設定とは裏腹に汎用で、どこかで見たことがあるような仕上がりとなっているという評価が見受けられます*1。
また、ゲームそのものも画面をタッチしながら物語の手がかりを見つけ、紙芝居を進めていくだけというものなので、現代のゲームとしては少し盛り上がりに欠けてしまいます。
一昔前のゲームであればあり得た仕組みではありますが、派手なアクションや美麗なグラフィックが当たり前となった現代では古臭く感じるところもあります。
『Truberbrook』が面白くないのに注目を集めた理由
そんなアドベンチャーゲームとしては散々な評価の今作ですが、それでも多くの人の注目を集めた理由には、どんな理由があるのでしょうか。
徹底して作り込まれたジオラマ
今作の魅力が何よりも現れているのは、まず精細に作り込まれたジオラマにあるでしょう。
物語のシナリオこそ汎用な『Truberbrook』ですが、それを表現するために作られた舞台は手作業で作られたジオラマが用いられており、CGはほぼ使用されていません。
作中では何度も昼夜が切り替わり、日中の日の光や夜のネオンのライトアップなどが繰り返されるのですが、これらは全て手作業で発光しているというのですから驚きです。
まるで上質なクレイアニメを観ているかのような体験は、ゲームとしての退屈さを忘れさせてしまうほどのクオリティに仕上がっています。
今作で追求したかったことは楽しいゲームを作ることよりもむしろ、クオリティの高いジオラマアニメーションを撮影することにあったとさえ思うほどですし、おそらくそうなのでしょう。
アドベンチャーよりも観光を楽しめる一作に
今作のゲーム性よりも世界観の作り込みに終始した作風を考えると、ジャンルこそアドベンチャーゲームという括りには落ち着いているものの、その実は少し異なります。
謎解き要素がゲームとしてのメインコンテンツにはなっていますが、謎そのものに手をかけている様子はありません。
画面に配置されているヒントボタンをタップすることで、そのシーンに隠されている謎も記してもらえるため、謎がわからずに進めないということもないでしょう。
そのため、やはりこのゲームはゲームとしての楽しさを堪能するよりも、ゲームを通じて作り込まれたジオラマを味わうことに重きを置いていることがわかります。
ゲームという形式を通じて、様々な人にジオラマの美しさを堪能してもらおうというアプローチです。
通常のクレイアニメを作るとなると、相当な予算と人手を必要としますし、雑な仕上がりでは動画として公開しても観てくれる人は少数です。
そこでスマホゲームというポップな市場に参入し、最低限のゲーム性をジオラマに加えることで、スマホゲームとしてのキャラクター性を獲得しました。
ゲームそのものは面白くなくとも、その作り込まれたジオラマ体験を提供することで、値段相応の価値を発揮しているのです。
『Truberbrook』から学ぶ、魅力的なゲームを作るためのポイント
多くの人に愛されるゲームは、必ずしもゲームとして面白い必要はなく、むしろそれ以外の部分で大いに人を魅了する部分があるものです。
クリエイターの主題は明確に
多くのプレイヤーを惹きつけるゲームを作るために必要なのは、どんなゲームを作りたいか、という主題の明瞭性です。
『Truberbrook』は一見するとゲームとしてのクオリティの低さに辟易してしまうところですが、ゲームをプレイする中でその主題は明確になっていきます。
今作の主題とは、前述の通り優れたジオラマ表現です。
夜のシーンにおける村のライトアップシーンや、雪が降り積もる様子はとても手作業で行なっているとは思えない仕上がりで、息を飲んでしまうほどです。
ゲームとしての面白さはなくとも、クリエイターの「ジオラマを作り込みたい」という熱量が話題を生み、多くの人に遊ばれ、その世界観を知らしめることができました。
突き抜けたキャラクターが持ち味となる
ゲーム作品における魅力は、どういった点で突き抜けているかが重視される傾向も見られます。
今回の『Truberbrook』もそうですが、インディーズ作品はそもそもAAA級のタイトルほどに完璧な作り込みを追求することは難しいものです。
人手や予算の都合上、どうしてもクオリティの低い部分というものは出てくるものですが、その分突き抜けた面白さがあるのであれば、欠点に注目されることはありません。
クリエイターが自分の得意ややりたいことを明確にし、そこに特化して作品制作に集中すれば、必ず光が見えてくることでしょう。
おわりに
例えゲームそのものは面白くなくとも、それ以外の部分で評価できる作品というのは世の中に数多く発表されています。
一長一短のゲームに色々と触れてみることで、どのように長所を生かしていけば良いのかという感性も、磨かれていくかもしれません。
併せて読みたい記事
→『Marble Knights』に見る、面白いゲームに欠かせない「ひねり」の作り方
→『FAR:Lone Sails』に見る、何もしなくても面白いゲームを作る方法
→面白いゲームとは美しいゲーム?『MeltLand』が与えてくれる心地よいプレイング
出典:
*1 ゲームキャスト「一度は訪れる価値がある観光地。ジオラマを取り込んだ風景をみるゲーム『Trüberbrook(トルバーブルック)』レビュー」
http://www.gamecast-blog.com/archives/65968849.html
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ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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『Truberbrook』App Store:https://apps.apple.com/us/app/truberbrook/id1451174691
『Truberbrook』販売元HP:https://www.headupgames.com/
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