スピンオフ作品から考える、ブランド価値を損なわないゲームの企画のあり方
ゲームであれ映画であれ、多くのファンを獲得しているタイトルとなると、様々なスピンオフ作品が登場します。
スピンオフはファンにとってその作品の世界観の広がりを体験できる機会でもあるため、嬉しいものに違いはありません。
しかし名前だけのスピンオフなど、時として本家に大きく劣る、あるいは乖離する作品を作ってしまうことで、その作品はもちろん、本家のブランド価値にまで悪影響を及ぼす可能性もあります。
こういった事態を回避するため、どのような点にスピンオフ作品は気をつけるべきなのでしょうか。
目次
隠れた良作『The Elder Scrolls: Blades』の遊び方
ここでは一例として『The Elder Scrolls: Blades』を挙げましょう。
こちらはスマホゲームとして新たにリリースされた作品ですが、質の高いスピンオフとして評価を得ている点が特徴です。
名シリーズ「The Elder Scrolls」のスマホ版スピンオフ
The Elder Scrolls、通称TESシリーズといえば、家庭用ゲーム機からPC版まで幅広く販売されてきた、世界有数のRPGシリーズです。
世界で最も有名なRPGの一つであるだけに、あらゆる層がこのシリーズの世界観を楽しめるよう、多様な展開もすすめられてきました。
スマホ版としては、昨年カードゲームを楽しめるスピンオフ作品がリリースされていましたが、今作はTESの戦闘のみを楽しめるシステムに特化した、バトルアクションゲームに仕上がっています。
ダンジョンに潜り込み、探索を重ねながら宝を見つけたり、敵との戦いに興じたりと、スマホ版とはいえ楽しめるポイントは非常に多いのが特徴です。
オープンワールドで自由に世界を歩き回る、というわけにはいきませんが、それでもダンジョン内の探索はそれなりの自由度と、美麗なグラフィックで堪能することが可能です。
高いクオリティを有するハクスラ作品
今作が特徴としているのは、本家同様の臨場感ある戦闘や冒険もさることながら、中毒性を高めてくれるハックアンドスラッシュ要素です。
敵を倒したり、宝箱を開けて強力な武器や防具を見つけられるのはもちろんのこと、難易度の高いクエストをこなしていけば、報酬として得られる機会も増えていきます。
序盤こそ地味な武具ばかりが続きますが、次第に強力かつ伝説級のレア度を誇るアイテムを手に入れられるようになるでしょう。
また、敵の種類も本家同様に非常に豊富で、中にはレアなアイテムを持つレアモンスターなども生息しています。
何度もダンジョンを潜り、彼らを探り当てるという楽しみ方もできるでしょう。
あるいは、冒険をこなすごとに拠点となる街を復興させることもでき、街の発展度合いに応じた報酬も得られます。
主人公の成長、装備の成長、そして街の成長という豊富な成長要素を有しているのが、『The Elder Scrolls: Blades』というわけです。
併せて読みたい記事
・知的に楽しめる放置ゲーム『放置系ハクスラモンスターズ』はなぜ面白いのか
『The Elder Scrolls: Blades』に見る企業努力
今作を名作スピンオフへと押し上げたのには、開発チームのたゆまぬ企業努力と、TESシリーズに対するリスペクトを忘れなかったことが要因として大きいでしょう。
極力課金の必要性を回避する無料作品を実現
今作は非常に高いクオリティを有していながら、基本的に全編無料で遊ぶことができるよう設計されています。
課金要素というのは宝箱のガチャシステムや、素材の購入といった部分に採用されているもの、基本的には全て無課金で楽しめる設計になっています。
あくまで時間短縮のための仕様ということで、じっくりと遊びたい人には不要のシステムです。
無料ゲームは有料ガチャを使って、初めてまともに遊べるということも珍しくないものです。
しかし今作に至っては、探索を重ねて成長する楽しみがある以上、むしろ課金を行うとその楽しみが半減するという、商品としてはやや矛盾した作りになっています*1。
本家同様に質の高い作り込みを徹底
そんなユーザーフレンドリーな今作ですが、無料とはいえゲームのクオリティには全く手が抜かれていないところに、こだわりと予算の掛け方の違いが見て取れます。
戦闘システムや基本操作は本家とはかなり異なるとはいえ、スマートフォンに最適化された操作性を有しており、スマホならではの遊び方も存在します。
スピンオフゲームは名ばかりの作品ということもあるものですが、今作に至っては、TESシリーズのIPを生かしつつ、新しいゲームとして名を残そうという気概を感じられるほどに力の入った仕上がりになっています。
スピンオフ作品で失敗しないための企画アプローチ
スピンオフはブランド価値を損ねる危険もある一方、アプローチ次第でさらなるファン層の獲得を促せる可能性もあります。
こういったリスクを最低限抑えるため、クリエイターはどのような企画をスピンオフにおいて考えるべきなのでしょうか。
第一のターゲットを本家作品のファンとする
まず、スピンオフ作品の第一のターゲットは、本家のファンであると考えることです。
TESシリーズのみならず、有名なIPであることを最も理解しているのは、本家シリーズのファンたちです。
そのため、スピンオフが例えどんな形で誕生しようとも、そのゲームを最初に手に取るのは本家作品のファンであることは間違いありません。
このことを考えると、やはり真っ先にゲームとして喜ばせるべきは、本家IPを知るファンたちです。
彼らはスピンオフに何を求めているのか、どんなゲームであれば楽しんでくれるのかということを、徹底して研究するべきでしょう。
スピンオフ作品は、そのIPのファンではない人ももちろん手に取ります。
しかし、彼らの興味を引くためには、まず本家ファンたちを納得させなければいけません。
なぜなら彼らが真っ先に手に取るプレイヤーであり、その評価を決定づけるのも彼らであるためです。
本家ファンの期待を裏切るような作品であれば、そのゲームはそれ以外のファン層に届くことはありません。
一方で本家ファンを喜ばせることができれば、それ以外の人が遊んでくれる機会も増えてくるはずです。
本家の設定やキャラクターに準拠したゲーム作りを心がける
本家のファンをスピンオフでも喜んでもらうためには、やはり徹底した本家準拠の設定です。
スピンオフは同人作品ではないため、本家で語られている史実や設定から外れることは許されません。
後付けのように根拠に乏しい設定も嫌われるため、背景や設定を練り込むことは重要です。
また、あまりにも本家で語られるのとは乖離したキャラクターの性格など、本家を知っている人が違和感を覚えるような展開や進行も、ファンを悲しませる要因になりかねません。
スピンオフでファンを喜ばせるためには、まず作り手がその作品における一番のファンの一人でなければならないのです。
おわりに
スマホゲームは多くのスピンオフ作品が登場していますが、本家との乖離やゲームの質の低さから、ファンを満足させる作品は限られています。
スピンオフは安定した集客が期待できる一方、長期的なプレイヤーの獲得には相応のクオリティが必要であることも押さえておきましょう。
併せて読みたい記事
・スマブラのプロデューサーが考える、面白いインディーゲームの企画の仕方
・ゲームの企画を短時間で生み出すために必要なこと
・人間を機械で表現?『Homo Machina』に見るゲームの面白いアイデアの作り方
参考:
*1 ゲームキャスト「下手な有料ゲームが裸足で逃げ出す、本格ハック&スラッシュRPG『エルダースクロールズブレイズ』レビュー。目立つ欠点は「課金する意味が見いだせない」程度」
http://www.gamecast-blog.com/archives/65975020.html
===============
ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
===============
『The Elder Scrolls: Blades』開発Twitter:https://twitter.com/ElderScrolls
『The Elder Scrolls: Blades』App Store:https://apps.apple.com/au/app/the-elder-scrolls-blades/id1358476597?l=ja
ゲーム業界経験者が転職するなら
GAME CREATORSを運営しているリンクトブレインでは、ゲーム業界に特化した転職エージェントサービスを提供しています。
ゲーム業界に精通したコンサルタントが、非公開求人を含む3,400件以上の求人の中から、あなたの希望や適正にあった最適な求人をご紹介します。
あなたの転職活動を成功に導くためにサポートいたしますのでお気軽に登録してください!