「シンプルで奥深いゲーム」の作り方とは? 「DownWell」から学ぶ“多目的”ゲームデザイン


インディーゲームクリエイターのもっぴん氏が東京藝術大学在学中にほぼ一人で開発し、2015年にiOS版とSteam版がDevolver Digitalからリリースされた、2Dジャンプアクションシューティングゲーム、DownWell。

その後、Android、PS Vita、PS4、Switchにも移植され、PlayStation Awards 2016のインディーズ特別賞を受賞するなど高い評価を受けました。

今年9月にはPS4とSwtichのパッケージ版が販売されるなど、発売から4年経った現在でも人気の高い作品です。

 

そんなDownWellを私がここで取り上げたいのは、これがゲームデザインについて考える教材として非常に優れているからです。

過去に3,000以上ものゲームジャムが開催されたウェブサイト「itch.io」で最大の規模を誇る「Game Maker’s ToolKit Game Jam (GMTK Game Jam)」の第1回(2017年)のテーマ「Dual Purpose Design」(二重目的デザイン)は、このDownWellを手本としたものです。

同ゲームジャムの主催者で、ゲームデザインに関するYouTubeチャンネル「Game Maker’s ToolKit」を運営しているMark Brown氏は、DownWellを評して「私が長年プレイしてきたゲームの中で最もエレガントなゲームデザインのひとつだ」と述べています。

 

DownWellは、見た目は白・黒・赤の三色で彩られ、操作は左右移動ボタンとジャンプボタンのみという、極限までシンプルなゲームです。

しかしそれだけに、ゲームデザインについての重要な知見をたくさん見出すことができます。

その中でも、今回は「ガンブーツの多目的デザイン」をテーマに論じたいと思います。

 

・1:宮本茂氏のアイデア論から生まれた「ガンブーツ」

DownWellは、下方向へ進んでいくゲームです。

そして、プレイヤーキャラクター(以下、PC)がジャンプ中に再度ジャンプボタンを押すと、PCが履いている「ガンブーツ」で下へショットが発射されて、敵やブロックを破壊することができます。

これを発射するとき、PCはその反動を受けて上に加速します。

これによって、滞空時間が伸びるなど、ダイナミックな空中制御が可能となります。

DownWellでは空中に滞在している時間が大半なので、ガンブーツは、攻撃はもちろんのこと移動の要でもあるのです。

 

このガンブーツは、開発初期の段階では存在しませんでした。

攻撃方法が存在せず、危険なものに触れると即死するというだけのゲーム(いわゆる「死にゲー」)だったのです。

スマートフォンゲームとして開発を進めていたため、操作は左右移動ボタンとジャンプボタンだけにしようと考えていたのですが、その制約から、ボタンを増やさないガンブーツのアイデアを思いついたそうです。

これは当時の死にゲーとしてのゲームデザインを、根底から覆すものです。

 

ここで影響を与えたのが、任天堂のプロデューサー宮本茂氏による

「アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである」

という言葉です。

もっぴん氏は、ガンブーツがこの言葉に合致すると考え、ガンブーツを中心にして全体をゲームデザインし直すことに決めたのだそうです。

 

DownWellは、下方向へ進んでいくという特性上、ガンブーツの「下へのショットの発射」と「上への加速」という効果はいずれも中核的な機能となっています。

このように、ひとつのアクションに複数の機能をもたせるゲームデザインを「多目的デザイン」と呼ぶことにします。

これは、DownWellに限らず、「スーパーマリオ」や「Splatoon」など様々なゲームに見出すことができる構造であり(後述)、面白いゲームをデザインするための効果的なメソッドです。

 

 

・2:多目的デザインはなぜ面白い? 「ゲーム=学習説」から考える

多目的デザインが面白さを生み出すメカニズムは、「ゲーム=学習説」から説明することができます。

これは一言で言えば、ゲームを学習の認知プロセスとして捉える考え方で、類似した(まったく同一ではない)課題を繰り返し解くことによって、その種の課題に習熟していくプロセスを「面白い」と感じるのだ、ということになります。

ゲームデザイナーのRaph Koster氏による『「おもしろい」のゲームデザイン』や、立命館大学准教授の渡辺修司氏による『なぜ人はゲームにハマるのか 開発現場から得た「ゲーム性」の本質』で展開されている議論などがそれに該当します。

 

この考え方を逆に捉えれば、ゲームを含む遊びを面白いと感じる感覚は、動物の進化の過程で、環境に適応するための術を効率的に学習するために獲得されたと考えることができるでしょう。

つまり、効率的な学習に繋がりやすい行動を面白いと感じるようになったということです。

実際、遊びをする動物といえば、哺乳類や鳥類など、知能の高いものばかりです。

それ以外に、タコも遊びをすることが確認されていますが、彼らも無脊椎動物の中では最も知能が高いと言われています。

また、人生において最も学習が行われる子供時代は、最も遊びたい欲求が強い時期でもあります。

 

それでは、どのような行動が効率的な学習に繋がりやすいのでしょうか。

影響が単純すぎる行動からは学習できることが少ないので、効率的ではありません。

例えば、画面をタッチすると、必ず決まった模様が表示されるといったアクションです。

逆に、影響が複雑すぎる行動も、因果関係を認識することができず学習が難しくなります。

それは、画面をタッチすると様々な模様が表示されるが、タッチの仕方と表示される図柄の関係がわからない、といったアクションです。

 

学習に効果的な仕組みは、複雑な影響をもたらしつつも、その因果関係を認識できる行動ということです。

例えば、画面をタッチすると、長押し・スワイプ・ピンチなどタッチの仕方によって異なる様々な模様が表示されるといった具合です。

 

多目的デザインは、この「複雑な影響をもたらす」という条件を満たしやすくなります。

ひとつしか機能のないアクションよりも、複数の機能をもつアクションのほうが、当然、複雑な影響をもたらしやすくなるからです。

 

ただしこのとき、アクションによる因果関係が認識しにくくならないように注意する必要があります。

ガンブーツについて言えば、下にショットを発射する機能と、反動で上へ加速する機能は、ひとつのアクションによる影響として直感的に納得できるので、認識しやすさを損なうことがありません。

 

 

・3:様々なゲームに見出せる多目的デザイン

多目的デザインは、様々なゲームに使われています。

 

例えば、任天堂の「スーパーマリオ」シリーズにおけるジャンプは、足場を飛び移ったりする移動、敵を踏む攻撃、頭突きによるブロックの破壊など、様々な機能をもちます。

ジャンプで先へ進みながら敵を踏むのは、このゲームにおける代表的な気持ちいい瞬間のひとつといえます。

同じく任天堂の「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズにおける攻撃は、相手にダメージ(吹き飛びやすさ)を蓄積させる機能や、相手を画面外に吹き飛ばして撃墜するという機能などをもちます。

 

ゲームデザイン上、この2つの機能を完全に分離するという選択肢も考えられますが、そうすると常にどちらのアクションを行うべきか考えなければならず、適当に攻撃しているだけでも楽しめるというカジュアルさは損なわれるでしょう。

 

任天堂ばかりになって恐縮ですが、「Splatoon」シリーズの射撃は、自分の陣地を増やす機能や、相手を攻撃する機能などをもちます。

相手への攻撃を外してしまっても陣地を増やすことができるので、これもカジュアルに楽しめるというこのゲームの美点に大きく貢献しています。

 

ビデオゲームだけではありません。

囲碁の着手は、実利をとる(確実な陣地を稼ぐ)機能と、模様を築く(陣地になりうる可能性のある勢力圏を大きくする)機能をもちます。

プロ棋士でも「実利派」と「模様派」に棋風が分かれるなど、極めて奥の深い概念です。

 

・まとめ

多目的デザインは、面白いゲームを作るために有効なメソッドです。

あなたがゲームデザインするときも、あるアクションに他の機能を付け加えたり、または複数のアクションをひとつに統合したりすることを考えてみるといいかもしれません。

そのときは、とにかくひとつのアクションにたくさん機能をもたせるのではなく、ひとつのアクションによる影響として直感的に納得できる機能を組み合わせるようにしてください。

 

ライター名:井戸 里志

プロフィール:株式会社GZOEのディレクター、マネージャー、ゲームプランナー。趣味として、ゲームデザインについての論考をGamasutra、CEDEC、DiGRA JAPANなどで発表してきた。代表的なものに「Agential Structure Model」(主体性構造モデル)など。

 

関連記事一覧