スマホゲームにおける「つかみ」の技術――『デレステ』『DQウォーク』『fgo』『メギド』のシナリオを例に


無料で手軽に始められるスマートフォンゲームには、ゲームを継続して楽しんでもらうための作り手の情熱と工夫が込められています。

軽い気持ちでプレイを始めたのに、気づけば夢中になっている……プレーヤーにそう感じてもらうために、様々な技術が用いられているのです。

 

「プレイしていくうちに面白くなるから」という言い訳は、スマホゲームユーザーには通用しません。

無料ゲームは、手軽に始められる反面、簡単にやめることができるからです。

しかし広告や課金で稼ぐタイプのゲームは、できるだけ長くプレイしてもらう必要があります。

 

プレーヤーが離れていかないようにするための工夫は多種多様ですが、本記事ではシナリオの側面からゲームを始めたてのプレーヤーが離れていかないようにする技術を分析していきます。

具体的な作品名を上げながら、ゲーム冒頭部におけるシナリオの「つかみ」がどのように使われているのかを見ていきましょう。

 

・1:「はじめまして」から始まる『デレステ』

 

まずはアイドルリズムゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』(以下『デレステ』)を例に、シンプルな形の「つかみ」の技術を見ていきましょう。

 

『デレステ』のオープニングは、アシスタントである千川ちひろが「はじめまして」と現れるところから始まります。

その後、千川ちひろのが仕事について説明してくれるという体で、ゲームのチュートリアルやアイドルの紹介が行われ……一通り終わるころには、ゲームの世界観やプレイ方法などがわかっている、という構成になっています。

 

ごくシンプルな「紹介」していくという形式の始まり方で、シナリオの分量も多くはありません。

プレイヤーの心を惹きつけるという意味では、このような始まり方を「つかみ」と表現するのに違和感を覚える人もいるかもしれません。

確かにこのような方法は「プレーヤーを引き込む」力は弱いかもしれませんが、「プレーヤーが離れていく」のを防ぐ狙いが込められているのです。

 

シンプルで簡素な始まり方のメリットは「プレーヤーが混乱しないこと」です。

いきなり多くの謎が提示されたり、知らない設定がたくさん語られたりすると、プレーヤーは混乱してしまいます。

「混乱」は言い換えれば「ストレス」であり、プレーヤーが離れていく原因になるのは間違いありません。

 

受け手側が混乱してストレスを感じてしまうのを避ける、という手法は古くから使われています。

小説の例ですが、「シャーロック・ホームズ」においては、天才のシャーロック・ホームズを視点人物に置くのではなく、一般人に近い目線を持っているワトソンを視点人物にしているのが大きなポイントです。

ワトソンがいることで、事件や推理に関しての解説を自然に入れることが可能になり、読者が混乱するのを防ぐことに成功しているのです。

 

ここまで見てきたように、『デレステ』の始まり方――順を追ってひとつずつ、理解しやすいところから説明していくというのは一定の利があります。

さらに言えば「はじめまして」という始まりかたは「これから貴方が知らない内容の話をする」というエクスキューズであり、心構えをさせてから徐々にプレーヤーに情報を与えていくという技法なのです。

 

・2:おつかい方式を採用する『DQウォーク』

 

もう一つ、シンプルな始まり方をしているゲームを見ていきます。

位置情報RPG「ドラゴンクエストウォーク」(以下『DQウォーク』)もつかみのシナリオ分量は決して多くはありません。

最初に「現実世界とドラゴンクエストの世界が混ざってしまった」という説明が画面効果と短めのテキストで表示され、その後は簡単なおつかい形式のクエストをこなしていくことになります。

(前述の通り位置情報RPGゲームであり、野外を歩き回ってプレイすることもあってか、そもそも全体的にシナリオはシンプルかつ短いものになっています)

 

短い文章でプレーヤーの心をつかみ、プレイさせ続けるために採用されているのがこの「おつかい形式」です。

“おつかいゲー”というと、ただただ単純な作業を繰り返させられるという意味で否定的にとらえられることもありますが、「おつかい形式」は決して悪いことばかりではありません。

人間は心理学的に「明快なゴール」「簡単な作業」の方がやる気が出るとされています。

「明確なゴール」と「簡単な作業」を「おつかい」という形で提示して、さらに「目的地まで行けば何かいいことがある(アイテムがもらえる、仲間が増えるなど)」というご褒美を与えることで、短くシンプルなストーリーでもプレーヤーを引き込んでいるのが『DQウォーク』です。

 

このような形式が採用されている理由は、『ドラゴンクエスト』シリーズのテイストも関わっていると考察できます。

『ドラゴンクエスト』は第一作目の時点で、以下のように工夫がされているといいます。

 

”まずゲームの最初は、王様の部屋にとじこめられていて、とりあえずコマンドをいろいろ入れないと出られない。

でも部屋を出たときには、宝箱をあけて、人と話して、ドアを開けて、階段を降りるといった、ゲームに必要なコマンドをだいたい覚えられるようにしたんです”*1

 

このように小さなタスクを与えて、それを達成させながらゲームを進めさせるという作風がすでに成立しているのです。

 

・3:ピンチを最初にもってくる『fgo』

 

ここまでシンプルな形の「つかみ」を見てきましたが、ここからはドラマチックな表現でプレーヤーの心を捉えている作品を見ていきます。

冒頭で大きな事件が起こって……という表現方法が、プレーヤーの気持ちを惹きつけるのはなんとなく理解していただけると思いますが、それを大げさにやってのけたのが『fate/grand order』(以下『fgo』)です。

 

『fgo』では、冒頭部で(一部を除いて)世界が崩壊します。

緊迫感と、先の見えない展開への期待感でプレーヤーは作品世界に引き込まれていくのです。

もっとも、大げさな事件を起こすだけでプレーヤーの心をつかむことができるかというとそうではありません。

『fgo』では、以下のような工夫をすることで、冒頭の大事件をしっかりと「つかみ」として成立させているのです。

 

工夫の一つ目は、「きちんとゲームの物語全体と意味のある事件にしている」ということ。

冒頭でいくら大きな事件を起こそうとも、それがシナリオの本筋と関わっていなければ意味がありません。

シナリオの筋と関係ない事件は、いわば“こけおどし”であり、プレーヤーも時間が経つにつれ白けてしまいます。

『fgo』においては、冒頭でおこった世界崩壊が、その後もシナリオに大きくかかわってくる、という構造を作ることによってプレーヤーの心が物語から離れないようにしているのです。

 

もう一つの工夫は、「主人公キャラの設定」です。

『fgo』は、背景に複雑なファンタジー的な設定を抱えていますが、それを最初からプレーヤーに提示しようとすると混乱し、ストレスになってしまうでしょう。

(『デレステ』の項目で書いたことをご参照ください)。

『fgo』は、主人公を「魔術の知識がない一般人」と設定しプレーヤーとの目線を合わせることで、混乱するのを防ごうとしています。

 

・4:ピンチから過去に視点を移す『メギド』

 

『fgo』で見てきた、最初に事件を起こすという方式を応用しているのが『メギド72』(以下『メギド』)です。『メギド』は、出だしからボスキャラとの戦闘が始まり、敗北するところから始まります。

そして敗北後、時間がさかのぼり少し前の出来事が描かれる……というように、ストーリーは進行していきます。

「なぜその悲劇(敗北)が起こったのか」という緊迫感と謎をフックにプレーヤーは、物語の世界へ引き込まれていくのです。

このように、事件を起こしてから時をさかのぼる……という形式は、”事件がないところに事件を起こせる”利点があり、これまでも様々なゲームや映画、小説で採用されてきました。

 

『fgo』のように開幕直後に大きな事件を起こすとインパクトはあるのですが、物語の幅が狭くなる可能性があります。

最大の事件が起こしてしまうと、そのことに対する状況描写などを入れないといけませんし、急き立てられるようにストーリーが展開していくので、世界観を描くのにも制限がかかってしまいます。

またゲームであればチュートリアルを組み込むのにも工夫が必要な場合があります。

『メギド』のように時系列を入れ替えて「事件が起こる時点から描きプレーヤーの気持ちを惹きつけてから、その後時間を巻き戻る」という方法は手軽なわりに、描ける展開の選択肢が広がる効果が高い手法であるのです。

 

・まとめ

これまで見てきたように、物語冒頭においてプレーヤーを引き込む「つかみ」の技術は様々です。

比較的ライトな世界観の『デレステ』『DQウォーク』ではプレーヤーにストレスを与えない方法で引き込んでおり、『fgo』『メギド』のようにシリアスな世界観の作品では、冒頭から緊迫感のある内容を提示していました。

今回扱わなかった作品では、その作品なりの「つかみ」が用意されているはずです。

 

どの方法が正解なのか、どれがより効果的なのか、一概に断定することはできません。

作品のテイストや表現したいことに合わせて「つかみ」を工夫する。

それが、ゲームクリエーターとしてのシナリオライターの仕事であると言えるでしょう。

 

引用

*1

Entertainment Meister – Vol.2 堀井 雄二 インタビュー | 文化庁メディア芸術プラザ

http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1165901/plaza.bunka.go.jp/museum/meister/entertainment/vol2/

 

ライター名:KAORU

プロフィール:「とりあえずこいつに任せておけば大丈夫だろう」を目指すゲームシナリオライター。ゲームの面白さを分析し、理論的にシナリオを構築することを得意としている。これまでに男性向け女性向け問わず80以上の案件に関わってきた。好きなジャンルは人間ドラマ。

 

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