『深世海 Into the Depths』に見る大手ゲーム会社の3DCGの仕事


スマホゲームにはスマートフォンオリジナルのインディーズゲームが数多く公開されていますが、従来の大手ゲームメーカーの作品も見逃せません。

 

スマホオリジナルの作品は少なく、その多くは移植作品でもあるのですが、カプコンがApple Arcade向けに公開した『深世海 Into the Depths』は、重厚なストーリーの作り込みとゲームシステム、そしてスマホのスペックをフル活用したグラフィックを備える、お手本のような作品になっています。

 

『深世海 Into the Depths』の魅力

「深世海」の魅力は、一つにそのシナリオがあげられるでしょう。

 

海底で描かれる崩壊後の世界

物語は、現在の地上で営まれている人類の文明が崩壊した世界で始まります。

世界が氷で覆われ、地上で暮らせなくなった人類は海底での生活へと移行するものの、海底までも凍り始めたとところから、主人公がその謎を探るべく立ち上がるところからゲームが展開されます*1。

 

いわゆるポストアポカリプスと呼ばれるジャンルに含まれるこのゲームですが、海底へと住居を移行させて行く設計はかなりユニークです。

 

「バイオショック」シリーズのように、地上の人間が海底世界に迷い込んでしまうというゲームは存在していましたが、文明を丸ごと海底に移してしまった世界からスタートするというのは、このてのゲームとしては斬新です。

 

映画『ウォーターワールド』は文明が水中に沈んでしまったために、水上での生活を余儀なくされるというものでしたが、海底に文明を築くという発想は、現代人ならではのハイテクノロジーなアイデアであると言えるでしょう。

 

考察が捗るシナリオの奥深さ

また、プレイヤーの環境が、謎に包まれた状態で進んでいくという点も非常に好奇心を刺激する設計です。

 

アポカリプス世界を描く物語は、例えばゾンビから逃れるための安住の地を目指したり、汚染された地球から脱出するべく火星を目指したりなど、比較的理解できる目標が設定されているものでした。

 

しかし「深世海」の場合、そのユニークな設定であるゆえ状況をつかみづらく、文明を崩壊させた氷の原因も不明です。

また、物語は言葉を介さずビジュアルのみで進んでいくため、プレイヤーのストーリー補完能力も求められます。

 

ゲーム内には、過去の海底人たちが残した壁画なども時折見つけることができます。

かつて存在したさらに昔の文明の廃墟を横目に、生前の世界に想いを馳せるのも趣のある楽しみ方です。

 

右も左も、そして地上も海底の様子もわからないまま、水中の閉塞感をこらえつつ、ことの真相を追求する面白さが、「深世海」の醍醐味となっています。

 

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カプコンが作るスタンダードなゲームの面白さ

日本最大手のゲーム会社である、カプコンがこのゲームの制作にあたっていることもあり、ゲームそのものの面白さも折り紙付きです。

 

潜水服の強度で描く主人公の強さ

まず主人公は普通の人間なので、もちろん潜水服を着込まなければ海底で生活することはできません。

そして生きるためには酸素も必要になるため、潜水服を補強し、酸素を回収するために探索を進めていくことがおもなプレイになります。

 

また、潜水服は少しづつ強化していくことができ、これがプレイヤーの強さに直結しています。

海底において生身はまさに無力なため、潜水服の破損は死に直結します。

 

地上であれば生身の身体へのダメージがHPに影響を与えますが、「深世海」においては潜水服こそが「身体」であるとも言えるでしょう。

 

鍛え上げた潜水服を手に入れられれば、行動範囲は増え、できることも増えていくのがポイントです。

 

豊富なギミックを上手に採用

「深世海」は水中ということもあり、地上とは異なるギミックも豊富です。

 

酸素を噴出してのジェット移動や、無重力空間であるがゆえの垂直崖登りなど、困難を乗り越えるための選択肢の豊かさに、少々戸惑うこともあるかもしれないほどです。

 

さらにフックショットによる移動など、水中の無重力空間を効果的に移動するためのアイテムも存在します。

常に浮遊感に苛まれながら移動することになるかもしれませんが、タッチスクリーンでの感覚的な操作とも非常に相性が良い世界観です。

 

また、酸素はジェット移動のように、生命活動のため以外にも使用することができます。

 

酸素の消費量を抑えながら効率的に動くにはどうすれば良いかや、急いで移動しなければならない時は、自分の生命線となる酸素を消費しなければならないため、その判断力が求められることになります。

 

この駆け引きが、「深世海」を面白くさせるスパイスになっていることは間違い無いでしょう。

 

3DCGで表現されるリアルな水中世界

単に設定としての水中世界ではなく、その3D表現によって、まるで本当に水中をのぞいているような感覚を味わうことができます。

 

アポカリプス的な薄暗さをグラフィックで実現

「深世海」の魅力の一つは、薄暗い海底世界をしっかりと描いたグラフィックにあるでしょう。

2D・3Dのゲームを問わず、水中の描写を克明なものとするためには、非常に高い技術と、機転の効いたアイデアが必要になります。

 

単に水中を無重力状態するだけでは、イマイチ水中っぽさを演出することができないためです。

 

一方「深世海」の場合、程よく淀んだ水質の表現や、岩肌の雰囲気、陰影のつけかたや錆び付いたオブジェクトなど、スマホゲームながら驚くほど丁寧に3Dで描かれている点が、ゲームを盛り上げるカギとなっています。

 

すでに地上の世界は滅んでしまったという後ろ向きな世界観と、この薄暗い水中のダークさが、見事にマッチしているところも「深世海」の魅力です。

 

3Dで繊細な描写も

また、背景だけでなく、深海に生息する生物や敵キャラクターのグラフィックも繊細です。

 

ゲーム中には生物図鑑の機能も搭載されているので、ハイクオリティな3Dをじっくりと堪能することができるのは嬉しいポイントです。

 

https://www.youtube.com/watch?v=5uRaPD3McO0

 

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おわりに

Appleの定額ゲームサービス、Apple Arcadeでの提供となる今作ですが、カプコンが手がける看板タイトルということもあり、家庭用ゲームに負けないクオリティを放っています。

スマホゲームでもここまで繊細に作ることができるのか!という驚きは、間違いなく得られることでしょう。

 

併せて読みたい記事
『風ノ旅ビト』に学ぶ、ゲームの3DCG製作という仕事の重要性
3DCG技術が活きる?作業ゲー『Perfect Slices』を作るという仕事

 

*1 参考)ゲームキャスト「文明が崩壊し、地上を捨てて海底で生きる人類のサバイバルアドベンチャー『深世海 Into the Depths』レビュー。やはり、カプコンの売り切りは面白い。」

http://www.gamecast-blog.com/archives/65949663.html

 

ライター名:Satoru Yoshimura

プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。

 

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