『FΛNTΛSIΛN』に見る、ジャンルの強みを生かした新しい設計のゲームとは
古典的なゲームといえば、多くの人がRPGを思い浮かべると思いますが、この度Apple Arcadeに登場した『FΛNTΛSIΛN(ファンタジアン)』は、そんな従来のRPGの姿を覆す設計が話題です。
RPGらしからぬ遊び心地ながら、RPGとしての土台は強く残されているという今作ですが、その絶妙のバランス感覚はどのような設計から誕生したのでしょうか。
目次
名作シリーズの父が手がけた『FΛNTΛSIΛN』
全くの新規IPとなる今作ですが、実は制作を担当したのはあの坂口博信氏です。
「FF」シリーズ生みの親が手掛けた作品
坂口氏と言えば、大人気RPGシリーズの「ファイナルファンタジー」を世に送りだしたとして、世界的に知名度の高いゲームクリエイターです。
実は「FF」以外にも、『ブルードラゴン』などの数々の意欲作を生み出してきた坂口氏ですが、Apple Arcade専用のRPGとしてリリースされたのが『FΛNTΛSIΛN』というわけです。
インディーゲームで賑わうスマホゲーム市場の中では、作品のクオリティの良し悪しも様々です。
そんな中、あらゆるゲーム機向けに大作を発表してきた巨匠が手がける今作ということで、多くの注目を集めています。
新感覚のRPG体験を提供
今作がコンセプトとしているのは、従来のRPGとは異なる新しいRPG体験です。
Apple Arcade のキラーソフトとして『FΛNTΛSIΛN』が発表された際には、ジオラマを製作して3Dスキャンを行い、ゲーム内に取り込む手法が話題となりました*1。
詳しいシステムについては後述しますが、今作は坂口氏のネームブランドだけで成立しているようなゲームではなく、2021年にリリースされるのにふさわしい、新しいゲーム体験の提供に力を入れています。
『FΛNTΛSIΛN』が挑む新しいRPGの形とは
RPGというゲームジャンルを聞いたとき、多くの人は定型化されたシステムを想像することかと思います。
今作ではこのような定型化をうまく回避しつつも、どこか懐かしいRPGらしさも尊重した、絶妙なバランスを実現しました。
現代的な新規システムを数多く採用
今作が特徴としているのが、独自のターン制コマンドバトルです。
ターン制バトルと言えば、RPGではおなじみの戦闘シーンとも言えますが、今作では攻撃の軌道を調節して敵を狙い撃つ、独自のエイムシステムを採用しています。
スクリーンのドラッグ操作によって攻撃軌道をコントロールし、攻撃範囲を調節したり、対象を変更したりという、リアルタイム操作を搭載しました。
従来のコマンドバトルでは味気ない入力作業が当たり前でしたが、エイムシステムの搭載によって、より戦闘にコミットし、臨場感のある体験を実現しています。
また、敵との戦闘を後回しにしてダンジョンの探索を行える「ディメンジョンシステム」や、後回しにした戦闘はミニゲーム形式で一気に片をつけられる仕様を導入するなど、これまでのRPGでは見られなかったシステムも特徴です。
RPGがルーティン化してしまうリスクを防ぎ、それでいて簡素になりすぎて味気ない作品となってしまうことも回避するという、優れたシステムです。
古典的なRPGらしさが土台を固める
このような前衛的なシステムの導入が注目を集める中、今作にはRPGらしい古典的なシステムも従来通り存在しています。
ダンジョンを探索して宝箱を探したり、各地で異なる顔を持つ3D世界での冒険を楽しんだり、仲間との重厚な人間関係を堪能したりと、様々な要素があります。
どれも従来のRPGで導入されてきた要素ではありますが、現代向けのアップデートも行われるなど、懐かしくも目新しさを損なわない仕組みが目をひきます。
このようなクラシックな遊び方をしっかりと用意していることで、「FF」的なRPGを期待していた人にとっても親しみやすいゲームへと昇華されています。
『FΛNTΛSIΛN』に見る、新しさと懐かしさが融合したRPGの設計
新しいシステムを組み込んだRPGは、どうしてもRPG「らしくなさ」が先行してしまい、旧来のRPGファンから反感を受けてしまうこともあります。
『FΛNTΛSIΛN』が挑んだ、RPGの敷居を広げる取り組みというのは、どのような設計に基づいているのでしょうか。
骨組みとなるRPG「らしさ」を尊重する
まず大切なのは、RPGらしさをつかさどるエッセンスを残し、あくまでもRPGの枠組みに収める取り組みです。
「全く新しい体験」とは言っても、本当に従来のRPG的要素を一切排除してしまうと、そもそもRPGとはどんなジャンルであったかも不透明になってしまいます。
前衛的な仕組みを採用することは歓迎されるべきですが、あまりにRPGの基礎とかけ離れたゲーム性は、RPGファンの獲得が難しくなってしまいます。
そこで重要なのが、まずゲームクリエイターが「RPGとは何か」「RPGたらしめるものは何か」を理解していることです。
いくらRPGを作っているつもりでも、クリエイターにとってRPGとはどのようなものか、という根幹が不安定だと、目指すべきRPG像やチャレンジングな要素が曖昧になってしまうこともあります。
土台の固め方を研究し、確固たる作品作りを意識することは大切です。
スペックを最大限生かしたチャレンジに挑む
新しさを追求する上で欠かせないのが、テクノロジーの力です。
凝ったゲームシステムや前衛的なデザインを盛り込んでいても、スペックを生かしたゲームでなければ「新しい作品」らしさをアピールすることができません。
『FΛNTΛSIΛN』では3Dグラフィックはもちろん、ジオラマを採用したマップ構成など、技術的にも優れたゲーム作りが注目されています。
それに加えて新しい戦闘シーンを採用するなど、ゲーム作りの至る所にまでディテールを作り込んでいることがわかります。
目新しさだけでなく、基本的なゲーム作りの品質も向上することで、注目に値する作品を生み出せるでしょう。
おわりに
数多くのゲームが世に発表されてきましたが、例え前衛的な作品であっても、基本的な質の高さがあれば相応の評価を獲得できています。
コンセプトの固め方やテクノロジーの活かし方を研究し、満足のいくゲーム作りを目指しましょう。
併せて読みたい記事
・ドラゴンクエストウォークで学ぶニッチジャンルでの戦い方
・二つの「気持ちよさ」を融合したゲーム『Mindustry』の設計とは
・箱庭×タワーディフェンスの『箱庭神社』が持つ、いいとこ取りのゲーム設計とは
参考:
*1 ゲームキャスト「”古き良き”ではなく、現代に通じる良質RPG『FΛNTΛSIΛN(ファンタジアン)』前編レビュー。『FF』の父が作る懐かしのゲームを超え、Mistwalkerだから作れた新作と言えるAppleのキラーソフト」
http://www.gamecast-blog.com/archives/65978780.html
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ライター名:Satoru Yoshimura
プロフィール:ライター。20年以上の付き合いがあるビデオゲームとアメリカ音楽をテーマとした活動が中心。「日本のゲーム音楽がヒップホップに与えた影響」などブログで公開中。
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『FΛNTΛSIΛN』App Store:https://apps.apple.com/jp/app/f%CE%BBnt%CE%BBsi%CE%BBn/id1517339045
『FΛNTΛSIΛN』Twitter:https://twitter.com/mistwalkerjp
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