【前編】女流棋士・香川愛生とゲームクリエイター・蛭田健司による株式会社AKALI! 将棋界とゲーム業界の双方を発展させる挑戦とは!?
将棋×ゲームを主眼にした総合企画・プロデュース企業、株式会社AKALI。
この異色の会社は、女流棋士である香川愛生氏と、総務省 地域力創造アドバイザーにも就任されたゲームクリエイター蛭田健司氏により設立されました。
AKALIの命名の由来や地方創生の取り組み、今後の業界発展への貢献について、両代表へインタビューを行いました。
前後編に分けてAKALIの活動をお伝えします!
女流棋士とゲームクリエイターの出会い
――最初におふたりの略歴をお願いします。
香川
15歳のときにプロの世界に入り、いまは11年目です。
他のプロと同様に対局をしていますが、ありがたいことに、ゲーム、アニメなどの他分野で活動する機会もいただいています。
ゲームでは、ファミ通チャンネルの配信、ゲームコラム執筆ですとか、他にはプロモーションに起用していただくこともあります。
――『りゅうおうのおしごと!』のコスプレもされていましたね。
香川
そうですね(笑)。
10年ぐらい前までは若い人に振り向いてもらえないことが悩みで、自分の趣味をひとつの打開策にしたいと考えました。
ゲームとかコスプレとか、現在まで表立って活動していることの中に無理やりやっているものはなく、全部自分の好きなものです。
自分と共有できる趣味を持っているかたに将棋にも興味を持ってもらえたらいいなと思って、オープンに活動しています。
――本当に好きなものだというのが、皆さんに共感される理由だと思います。
香川
皆さん好意的に受け止めてくださっています。
マジック:ザ・ギャザリングのポスターで私を見てイベントにも来てみましたとか、人狼ゲームがきっかけで私を知って、将棋もやるようになりましたとか。
自分の名前も愛生、愛に生きるですけど、好きという気持ちは何より大きいパワーだと感じることが多くて。
そのエネルギーを将棋の普及に繋げるというのがポリシーです。
蛭田
香川さんのゲームとの関わりは本格的で、日本最大のゲーム開発者カンファレンスである「CEDEC」にも登壇されるほどです。
決して片手間ではないと感じています。
将棋でも高い勝率を維持しながら、ゲーム業界の活動にも力を入れてくれて、ありがたいです。
香川
タイトル挑戦、獲得までは厳しい道のりですが、応援してくださるかたには勝っている姿をお見せしたいです。
それはプロとして絶対の、ある意味、自分やファンの皆さんとの約束だと思っています。
蛭田
やりとりをしていて思うのは、プロの女流棋士というのもあり、頭の回転が凄く速く、そういった能力の高さをゲーム業界の仕事にも活かしていただいています。
香川
将棋指しって、こだわるんですよね。
ハマり症というか、一度熱中するととことんまでやる。
好奇心とやり込みのステータスが、一般的な数値から突き抜けているんだと思います。
――次に蛭田さんの略歴を教えて下さい。
蛭田
株式会社AKALI代表取締役と、総務省 地域力創造アドバイザーというふたつの肩書を持って現在は活動しています。
キャリアのスタートはゲームクリエイターですし、いまでもそうです。
昔はセガやコーエーテクモなどで大きなゲームの開発に携わっていました。
元々エンジニアとしてゲーム業界に入ってスキルを伸ばし、『真・三國無双Online』という10年以上続いているオンラインゲームがありますが、その初期開発からのテクニカルリーダーをやりました。
その後、マネジメントや経営という形で段々幅が広がって、その経験を活かしていろんな会社のアドバイザーや顧問をやってきました。
そこから発展して、いま総務省の地域力創造アドバイザーになっているという流れです。
――現在やっている総務省 地域力創造アドバイザーとして、具体的にどのような活動をされているのか教えて下さい。
蛭田
地域力創造アドバイザーという制度は、日本各地の魅力を高める取り組みに対して、総務省から補助金が出る制度です。
私のようなアドバイザーが行うアドバイスや作業について、総務省からお金が出るので気軽に使って下さい、というものなんですね。
自治体にとってはお金の負担がなく取り組みができる良い制度なんですが、地域力創造アドバイザーになるのはかなりハードルが高くて、毎年各都道府県から1名ずつしか推薦されません。
そのあと総務省の審査を通って、はじめてアドバイザーに就任できます。1年で40人くらいしか増えないので、いま全国で対象となる自治体が1,700ほどあるのに対し、350人くらいしかいません。
香川
蛭田さんが地域力創造アドバイザーに就任されるきっかけになったイベントというのが、私と一緒に企画したイベントなんです。
蛭田
富山県でゲームのまちを作ろう、ゲーム開発者を育成しようという事業が行われていて、そこの総合戦略アドバイザーをやっていました。
その成果を認めていただいて、富山県から地域力創造アドバイザーに推薦いただいたという流れです。
香川
「富山、eスポーツ、将棋」と検索したらそのイベントが出てきますよ。
最初は蛭田さんがゲーム事業の専門家として依頼を受けたんです。
そこで私も同じ会社なので相談されて、将棋も絡めたほうが面白そうですよね、という話になった。
eスポーツ大会をやる会場で将棋の大会も同時開催したら、これは全国的に初の試みだろうし、私も見てみたい(笑)ということで、直前なのに蛭田さんに猛プッシュしてもらいました。
蛭田
もともとは香川さんにトークショーをしてもらうつもりだったんですが、急に将棋大会になったので本当に準備が大変でした。
香川
すいませんでしたー!
eスポーツってこれからどんどん伸びていくジャンルですが、いま熱中している層は10代後半~30代あたりなんですね。
将棋ファンの世代とちょうど逆なんです。
最近になってスター棋士の先生がたのご活躍や、たくさんのネット中継などのおかげで、やっと若い人も入ってこられたくらい。
それを組み合わせたらお互いに届いていない層まで届けられるし、新鮮みがある!と盛り上がって、直前にも関わらず……。
蛭田
将棋って静かにパチ、パチとやるし、eスポーツはドーンと盛り上がる。
一見異質に見えるんですが、真剣勝負の部分だったり、本番前の勉強や練習の積み重ねが大事だったりなど、競技性は近いところもあるんですよ。
――極めると結局は人対人の戦いになるところが、似ていますね。
香川
ゲームでも将棋でも、相手がいるからできるんです。
それは自分ひとりでAIと対戦しているときとはまったく別物です。
相手が変われば自分も変わらないと勝てない。
また相手が同じでも会場が変わるだけでも、勝負は違ってくる。
いつでも変化があって飽きない部分が将棋とゲームに共通する面白い部分です。
だから何回でもできるし、観られるんですよね。
我々競技者から見てそう思えるだけでなく、ファンのかたがそこに共感して、興奮してくれているからこそ、AKALIの取り組んでいるような企画が実現できるんだと分析しています。
蛭田
うちの会社も同じなんですよ。
一見異質に見える、ゲーム好きの女流棋士と将棋好きのゲームクリエイター。
そのコラボで上手く回っている会社です。
香川
充実したキャリアと経験を持つ蛭田さんがいて、将棋という深いけど狭い世界にずっといたからこその感覚が研ぎ澄まされた私がいる。
ふたりともパラメーターをレーダーチャート化したら、全然丸にならなくて、どちらかといえばギザギザしているはずなんです。
もちろん蛭田さんのほうがパラメーター全体の面積は大きいんですが、その自分の尖っている部分を活かすとなると、絶対、誰でもいい訳じゃないはずなんです。
だから蛭田さんとお会いできたのは幸運だったと思います。
蛭田さんに初めてお会いしたのは、前職の、いや前々職……前前前世くらいでしたっけ?
蛭田
(笑)。3年くらい前にヤフーにいて、そこの将棋部の立ち上げをやったときですよね。
香川
そうでした。
将棋部に指導でお邪魔して、そこからコミュニケーションを取るようになりました。
――お互いの第一印象を聞かせて下さい。
香川
謙虚なかただと思いましたね。
謙虚って自分を卑下しているパターンと、自分はまだまだだから新しいことができるし、やらなくちゃってパターンがあると思うんですけど、蛭田さんは後者だと思いました。
これからどんな活動を展開していくかたなのかなと、興味を持った記憶があります。
でも意外と将棋はまっすぐでした。
蛭田
(笑)。
香川
将棋は1回指すとどういうかたか、人となりが分かるんですよ。
わかりたいと思って接するので。
蛭田さんは真面目なかただと思いました。
蛭田
最初の対局はそうでしたね。
香川
真面目ですし、綿密に準備をされるかただなと。
事前に何も決めずに対局するかたもいるんですよ。
でも蛭田さんは事前にどう戦うか、分析したり考えたりして臨まれるのが当たり前のような雰囲気が印象的でした。
仕事柄なのかもしれませんけど。
蛭田
瞬発力タイプではなく、準備タイプなんです。
香川
その印象があったので、一緒に仕事をする上で安心感がありましたね。
私はこれが最善だって思いついたら、〆切直前でもごり押したくなる。
これを普通の会社でやるとリスクもあって、コントロールするのが大変なんです。
そこを蛭田さんが「それは次回活かしましょう」なのか「今回やりましょう」なのか、冷静に判断してくれるので安心感があります。
蛭田
私にとっての第一印象は、忘れられない、雷に打たれたみたいな体験でした。
気さくにお話していただいて、女流棋士としての大変な思いや、勝負の厳しさも話して下さった。
それが重くならず、笑える要素もあって、とても軽やかだったんですね。
話も上手だし、なんて親しみやすいかたなんだろうって驚いた。
棋士って職人気質なかたも多いなか、気を配って盛り上げていただいて、短時間でこの人は凄いと思えたんです。
そのときに私が冗談で、弟子にして下さいって話をしたんですよ。
普通、「いやいや、とんでもないです」とか言うところじゃないですか。
そうしたら「厳しいですよ?」って。この返しが瞬時にできる人は頭が良いなって思いました。
香川
私も冗談ですからね?内心震えながらでしたよ(笑)。
蛭田
だから私にとって、歳は違うんですけど、先生という立場でいろんなことを教えていただく、発想を助けていただくみたいな関係性ですね。
香川
おそれおおいです。
私こそ、これまでの仕事とまったく違うことをしているので、助けていただくことが多い。
私は逆に言うと、経験がないぶん発想が自由なんだと思います。
広報力と事業力の両輪
――会社での役割分担について教えて下さい。
蛭田
香川さんには社長をやってもらっています。
ふたりとも代表取締役なんですけど、香川さんは会社のトップとして相応しい発想力とリーダーシップを持っていると思っています。
こっちに行くぞーって思ったら、迷いがない。スパッと決まるんですよ。
まぁ、食事のメニューを見ているときは凄く迷われるんですけど、それも最善を尽くす故なんでしょうね。
普段はこれは好きこれは嫌い、やりたいやりたくないがはっきりしていて、一瞬で答えられる。
しかもただ決めるのではなく、そのバックグラウンドには様々な積み重ねがあって、結果一瞬で決まっているというのがわかるので、私は決まったことの実現のために動くという役割を担っています。
私はゲームを作っていた経験から、アイデアを形にする、ひとつずつ実現していくのが得意なんですね。
香川
実現力、見習いたいです。
蛭田
発想力と実現力という組み合わせなのかなと、認識しています。
香川
本当にそんな感じだと思います。イベントをやるときもリレーのような感じです。
蛭田
香川さんがアイデアを出して、私が準備して、香川さんが現場で頑張って、私が後片付けとレポート、みたいな。
香川
大変なところ全部蛭田さんですね(笑)。
私は性格的に、現場が好きなんですよね。
対局も、YouTubeの配信もそうですけど、いまその環境で自分の最大限を出すというのが性に合っている。
発想も言うだけだったらなんの制限も要らない。
いま思いつくものを全部言ったらいいじゃないですか。
でも実際それを形にするとなると、あれはできるこれはできないという判断が大事になる。
その発想と実現の両方を同じ人がやるよりは、分担したほうが私たちは高いパフォーマンスが出せる。
それを二人とも本能的に理解していて、お任せするところは蛭田さんにお任せするし、現場でお客さんとコミュニケーションを取るような部分では自分が頑張るようにしています。
蛭田
最初からお互いが綺麗に噛み合っていたので、ぶつかったことが一度もないんですよ。
――具体的な会社の事業について、お話を聞かせて下さい。
蛭田
AKALIはプロモーション事業も行っているのですが、香川さんのTwitterのフォロワーが先日、57,000人に達しました。
YouTubeも2ヶ月で23,000人。
AKALIはこの彼女の広報力と私の事業力という組み合わせです。
事業と発信、これが両輪だと思っています。いいことをやっても、それが知られないと次に繋がらない。
そこでも役割分担ができています。
香川
Twitterは18歳のころからやっているので8年分くらいの積み重ねがあるのですが、YouTubeが2ヶ月で23,000人はびっくりしますよね。
ありがたいです。
プロモーションって、発想もあるけど経験と人脈も大事です。
その人脈が、かぶってないんですよ。私と蛭田さんの人脈の円をふたつ書いたら、真ん中の将棋とゲームの部分で少し重なっているけど、それ以外が別ジャンルなんです。
蛭田さんは自治体とか経営層、ゲームは開発関係。
私は将棋関係とかインフルエンサーとか出版とか。
人脈は勝ち取るものではなく、恵まれるご縁だと思っていますけど、そうしたご縁が結果的にプロモーションで効果を発揮することもありますので、大切にさせていただいています。
蛭田
プロモーションの中身に関しても、単にTwitterに流すのではなく、ちゃんと工夫しています。
マチ★アソビというイベントで、フォントワークスさんというフォントの会社のプロモーションを行ったんですが……。
香川
それも私がひらめいたんですよ!
ぜひインタビューに書いておいて下さい(笑)。
蛭田
フォントワークスさんのmojimoというサービスを広めたいというPR案件でした。
デジタルフォントのサービスなのですが、香川さんがいろんなフォントで詰将棋を作ったら面白いんじゃないか、というアイデアを出してくれて、これが大好評。
香川
フォントワークスさんを宣伝するチラシが明朝体じゃダメだろうと思って、将棋界にある文字ってなんだろうと考えていったら、詰将棋だった。
詰将棋だったら、使っている文字のフォントを長い間見てもらえますよね。
結局、よくばりなんですよ。妥協できない。
フォントにしても一度気になったらとことんこだわるし、せっかくフォントを見てもらうんだから、何回も何時間も見てほしいんです。
――こだわるポイントを外していないので、皆にもこだわっているのが伝わっているんだと思います。
香川
面倒くさい人間なんです(笑)。
なんというか、将棋やゲームって生活になくてもいいものなんです。
私は仕事だからやらなきゃいけないけど、ほかの人はなくてもいいものです。
それを趣味にして、大事にしてくれている。
それがありがたいという気持ちがあるので、こちらも中途半端なものはお出しできない。
こだわったものを見てほしいというのは常にあります。
蛭田
人間がやっていた作業がAIと機械に置き換わったときに、最後に残るものは何か、という話です。
かつては人間を便利にするものを目指していた。
これからは、人を幸せにするものが残っていく。
20数年前に私はそう考えてエンタメ業界に入りました。
例えばヤフーでは課題解決エンジンというビジョンを掲げている。
それは何故かというと、世の中を便利にしたいからです。
それがAIに置き換わっていったとき、オーダーは便利から幸せに移って行く。
これからは趣味だったりゲームだったりが重みを増していく時代だと思います。
香川
要らないものが要るようになっていく時代になっていくんですね。
(後編へ続く)
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