『美術館×ゲーム×地方創生』。ゲームを活用した美術館収益拡大事業について、山種美術館、株式会社ジー・モード、株式会社AKALIの皆様に聞いてみました!
AKALI/ジー・モード/山種美術館について
――まずは蛭田様、竹下様、山崎様のご経歴について教えて下さい。
蛭田
総合企画・プロデュース企業である株式会社AKALI代表取締役の蛭田健司と申します。
AKALI以外にも、IGDA日本の理事とSIG-地方創生の正世話人、東京工科専門職大学の准教授、総務省 地域力創造アドバイザーという立場で現在は活動しています。
GAMECREATORSさんでは何度かインタビューを受けているので、読者の方にはもうおなじみかもしれませんね(笑)。
〇株式会社AKALI代表取締役 蛭田健司 様
竹下
株式会社ジー・モードの竹下功一です。現在取締役と事業統括本部長を兼務しています。
ジー・モードの事業内容としては、ゲームをはじめとしたエンターテインメントサービスの開発及び配信事業になります。
カジュアルゲームの開発や、NTTドコモ スゴ得コンテンツ用、Nintendo Switch用などのゲームソフトの配信をしており、代表作品としては『空気読み。シリーズ』などがあります。
様々なコンテンツ・サービスを手掛けていますが、コンセプトとしては”カジュアル・ユニーク・エンターテインメント”を掲げています。
また、かつてのフィーチャーフォンのゲームアプリを復活させるプロジェクトである「G-MODEアーカイブス」の運営も行っています。
フィーチャーフォン時代にあった面白いゲームをいまでも遊べるように一つ一つアーカイブしていて、1年で36作品復活しており、ゲームメーカー様からのご相談も多いプロジェクトになっています。
〇株式会社ジー・モード取締役 竹下功一 様
山崎
山種美術館館長を務めております、山崎妙子と申します。
1歳の時から、「山種」の由来である祖父の山崎種二と住んでいて、当時は日本家屋の床の間に掛け軸、洋間には額装した日本画や油絵が掛けられていて、常に美術品に囲まれて生活するという恵まれた幼少期を過ごしました。
慶応義塾大学の経済学部を卒業し、美術館で仕事をしたいと志した際、両親に「美術の勉強をしていない人に美術館を任せる事は出来ない。せめて美術史に関する修士号を取りなさい」と言われたことをきっかけに一念発起して、東京藝術大学の大学院を受験し、修士号、博士号を取得したのちに山種美術館で働き始めました。
〇山種美術館館長 山崎妙子 様
――山種美術館の概要と運営理念についても教えて下さい。
山崎
山種美術館は1966年(昭和41年)7月7日に日本橋兜町の山種ビルの8、9階に日本初の日本画専門美術館として開館しました。
祖父の山崎種二が、自分の楽しみにと収集してきた日本画を美術に縁のなかった方にも広く味わっていただきたいという事で、“美術を通じた社会貢献”という基本理念のもと、開館しました。今日に至るまで、その理念を受け継ぎ、近代・現代日本画を中心とした収集・研究・公開・普及につとめております。
今年、2021年に開館55周年を迎え、当館の名品の中から選りすぐりの絵画を選んだ記念展覧会「百花繚乱 ―華麗なる花の世界―」を6月27日まで開催しています。
テーマに合わせて特別展や企画展を開催しており、1人の画家に絞った展覧会や、今回のように季節に合わせたテーマを設けた展示も行っています。
――2019年にはアプリゲーム『明治東亰恋伽~ハヰカラデヱト~』とのコラボ企画など、ITを活用した情報発信について積極的に取り組まれています。その理由について教えて下さい。
山崎
日本画は中学や高校の授業で学ぶ機会がほとんど無いので、どうしても敷居が高いと思われがちです。
ご質問いただいた施策も含め、いろんな人に日本画を知っていただく機会を増やしたいと思い、新たな分野での活動や情報発信を続けています。
日本画や美術館にご縁のなかった方も以前コラボした乙女ゲームを通じて当館に実際に足を運んでくださり、その後も継続して定期的に通ってくださる方も多いです。
ゲームを活用した美術館収益拡大事業に迫る!
――改めて今回のゲーム×美術館による地方創生に関するお取り組みの内容について教えて下さい
蛭田
今回の取り組みに至ったきっかけは、IGDA日本SIG-地方創生の活動の一環として文化庁で令和2年度補正予算に組み込まれた「博物館異分野連携モデル構築事業」に応募したことです。
コロナ禍によって運営の危機に陥っている日本各地の美術館や博物館を、ポップカルチャーとのコラボによって新たな収益モデルを構築するという事業です。ゲームによって地域の活性化を目指すSIG-地方創生の理念に近しい事業という事もあって応募する運びとなり、その説明会の時に山種美術館の事務局長様とお会いしました。
ミーティングを個別にしていく中で“美術館の美術品、展示品にまつわる画像データを使ったゲームを制作できるかもしれない。また、もしそれが実現できれば他の美術館や博物館でも同じことができるのではないか”という考えに至り、今回山種美術館様、ジー・モード様と共に取り組むことになりました。
竹下
NTTドコモ様が運営している「スゴ得コンテンツ」に山種美術館の絵画をテーマにしたゲーム、「日本の名画みっけ!」を提供させて貰っています。
ゲーム画面に登場する山種美術館の絵画の中から、指定された部分が作品のどこにあるかを見つけるシンプルなゲームです。1日1問形式で、該当箇所をすべて見つけられると全体画像と共に作品や作者に関する詳しい情報を閲覧できます。
また、該当ページを山種美術館の受付に提示すると入館料が100円割引になるという特典もあります。
――NTTドコモ様のプラットフォームでゲームを配信しているのはなぜですか?
竹下
スゴ得コンテンツのお客様には、ご年配の方やライトユーザーの方が多いというのが理由です。
蛭田さんから山種美術館とのゲームコラボについてのお話をいただいた際に、Nintendo Switch等のユーザーよりもスゴ得コンテンツの会員の方が、山種美術館に来館される層にマッチするのではないかと思いご提案しました。
現在は6月27日まで開催中の「百花繚乱 ―華麗なる花の世界―」に展示されている作品を中心に選定しておりますが、今後も様々な企画展に合わせてテーマなどを変えていければと思っています。
――取り組みについて目標としている指標などはありますか?
蛭田
まずは“山種美術館の作品を知ってもらう”という事を主目的として定めています。
AKALIとしては、定量的な目標を決めてそれを達成するより、このような意義深い取り組みが広がる事でゲーム業界、美術館、博物館等の発展に役立ちたいというのが目標になっています。
山崎
作品を学ぶ楽しさを知ってほしいと思っています。
新型コロナウイルスが流行する以前は、当館主催の講演会に足を運んでくださる方は学ぶことが好きな方が多く、展示作品を間近でご覧になり、作品解説も一生懸命読んでくださいました。
そういった方が、「日本の名画みっけ!」を通して、日本画に親しみ、長すぎない作品解説や作家解説を毎日読むことで、日本画の魅力や学ぶ楽しさを見つけてほしいです。
蛭田
俗にいうゲーミフィケーションですね。1日1作品という事も重要になっていると思います。
山崎
確かにそうですね。例えば本であっても、初心者にとって中々1日1冊というのはハードルが高いと思います。コンセプトとして、1日1つずつ日本画について知識が増えていくというのは良いと思いますし、それがユーザーにとって習慣になっていくとうれしいですね。作品を知る事で日本画の見方も変わってくると思います。
――初めから現在のゲームコンセプトを定めていたのですか?
蛭田
最初の段階は、間違い探しのようなゲームというコンセプトでした。
竹下
そうですね。あとはライトユーザーに人気なジャンルでいうと、アハ体験のように絵がどんどん変わっていく様なゲームも少し考えていました。
しかし、実際の日本画を改変してしまっては今回の取り組みの意図から離れてしまうのではという懸念と、また、間違い探しの形式にして間違った方が印象に残ってしまうのは望ましくないと考えました。
ではどうするかと考えた時に、日本画を取り上げつつ部分的な絵画を生かしたものをゲームにしようと企画しました。
また、お借りできる絵のデータの点数をお伺いしたところ、300点以上はゲームに掲載が出来そうという事でしたので、日替わりで遊ぶ様なコンテンツが良いのではないかと思いました。1日1回何かするゲームというのは人気の形式ですからね。
――「日本の名画みっけ!」のリリースにあたり、どのように連携体制が取られたのですか?
蛭田
今回の取り組みは2020年8月が起点で、山種美術館の事務局長様から今回の取り組みに関する話をいただき、竹下さんとご相談して座組を決める期間がありました。
山種美術館、ジー・モード、AKALIの3者の目標をかなえるための座組を検討するのにかなり時間が掛かっていて、事前のメールだけでも80通以上のやり取りがありました。
――プロデュース会社であるAKALIとして心掛けていた部分はありましたか?
蛭田
初めのやり取りでAKALIが間に入っていたことがポイントだったと思います。
画像のクオリティはもちろんですが、どれだけの画像が使えるのか、データ管理はどうするのか、どのような情報を組み込むのかといった、ゲーム制作における実現可能な要素の整理です。
いきなり3者で話そうとすると混乱が起きてしまいますから、スムーズな実作業に入るための地ならしが出来たので、そこは役に立てた部分だったかと思います。
竹下
今年2021年の1月に初めて3者顔合わせして、4月21日にリリース出来ましたね。
蛭田
開発陣が優秀ですごく助かりました!
竹下
ありがとうございます(笑)。
――具体的に来館者や、ゲームを遊んだ方に知ってもらいたい、あるいは期待している事はどのような点ですか?
山崎
幅広い年齢層の方々にゲームを体験してもらって、日本画が敷居の高いものであるという認識が解消されて、多くの人に“実際に見たい!”と思っていただけるとうれしいです。
今はコロナ禍で人の心が内向きになりがちですが、そんな心を豊かにするきっかけとして、今回の「日本の名画みっけ!」があればいいと思っています。
また、山種美術館としては広報的な側面でデジタル分野をもっと伸ばしていきたいと思っています。現在弊館のTwitterはフォロワーが15万人ほどいるので、そういったデジタルツールをもっと活用する事で知っていただきたいと思っています。ネットで見る日本画と実際に見る日本画では印象がだいぶ違いますから、日本画特有の質感とか色合いをご来館いただくことで肌で体験してもらいたいです。
――美術館収益拡大事業について、山崎様ご自身が考えられる施策や構想などはありますか?
山崎
構想とは少し違うかもしれませんが、ネットフリックスのような形で美術館専用の動画チャンネルがあればいいなと思います。美術館や博物館の展示品を動画で鑑賞できる仕組みがあれば、美術館や博物館業界全体の底上げにもつながるのではないかと思っています。
また、海外から来た方々が東京で美術館を探す時に、東京都のウェブサイトを見ても都立の美術館しか出ていないので、日本画という日本独特の文化に小さい頃から親しんできた私としてはもっと大きな枠組みで美術館業界を盛り上げる施策をしていただきたいと思っています。
蛭田
山種美術館様は外部へのお取り組みの幅が広いですよね。子供向けに美術品に関する学習の場を設けたり、「Seed山種美術館 日本画アワード」という表彰制度を作って若手画家のコンテストを開催したりしていて、作る側と見る側の両方を常に考えておられる印象です。
山崎
藝大大学院時代から、画家を目指す人たちとの交流がありましたが、今でも画家として活躍されているのは一握りです。そういった苦労を身近に見てきたことも、美術界をより盛り上げたいという思いに繋がっているのだと思います。
だからこそ、今回のようにゲーム会社との取り組みは美術館の発展のみならず社会貢献に大変意義深い取り組みですね。
美術館収益事業拡大に向けた今後の構想について
――今回のコラボ企画を通して成し遂げたい事や、今後のご構想についてお聞かせください。
蛭田
現在は”まずは日本画を知ってもらう”というところに重きを置いていますが、将来的には機能面でも役立てて行きたいと思っています。
例えば、アプリで日本画のコレクション一覧のUIを作って、穴埋め、スタンプラリーのような形式でどんどん集まっていくことで、ユーザーの興味喚起を図ったりすることなどですね。コレクションが出来たら実際にその絵画を見たくなると思うので、その動機づけをより深めていく様な機能追加も今後は行っていきたいです。
また、特定の作品が見たいという時に、その作品がいつ展示されているかが分からないことがあると思うので、展示カレンダーのような機能もあるといいかなと思っています
竹下
今回リリースした、「日本の名画みっけ!」のようなゲームは、スゴ得内でも、ジー・モードとしても前例のないジャンルのゲームだと考えています。今後も縦横にどんどん広げていきたいですね。
あと将来的な部分では、実際に見たものをいつ見たかチェックできたり、他の人も見ることができるメモとして感想を残すようないわゆるUGC(ユーザー生成コンテンツ)としての機能を取り入れたりしても面白いと思っています。
――改めて、今回のお取り組みに関するご展望を教えて下さい
竹下
冒頭話した部分と重なりますが、今回の「日本の名画みっけ!」を、山種美術館様と連携しながら運営して、より多くのお客様に楽しんでもらいたいと思っています。
そして、そのニーズをNTTドコモ様やユーザー様に知ってもらって、賛同いただける他の美術館や博物館とも積極的に取り組んでいきたいと思います。
我々ジー・モードは、”カジュアル・ユニーク”なエンターテインメントに特化したゲームメーカーであろうとしています。
本作は、当社のテーマを実現したゲームでもあると思っていますので、ぜひ興味ある方はスゴ得に入っていただいて、このゲームを遊んで体験してほしいですね。
蛭田
今回のプロジェクトは始まったばかりです。
リリースまでは成功しており、今度はいかに知ってもらうかというフェーズに入っていて、ここからは総合企画・プロデュース企業のAKALIの腕の見せ所だと思っています。
今回の取り組みは長期的に行う内容なので、短期決戦で一気に広告プロモーションをかけるというよりは、コンテンツとして“面白そう!”と思って貰えるような施策をアドバイザーとして引き続き考えていきたいです。
山崎
山種美術館はTwitter、Facebook、Instagram、noteといったデジタルコミュニケーションに力を入れているので、今回の記事や今後の発信においても、我々の取り組みを色々な方々に知っていただきたいと思っています。
――GAMECREATORSの読者に向けて一言お願いします!
竹下
ジー・モードでは比較的小中規模のエンタメづくりも行っており、今後も様々な事業を展開していく予定です。
一緒に働きたい人も募集しているので、興味のある方はぜひ問い合わせてください。
蛭田
非常にお恥ずかしい話ですが、今回の取り組みに至るまで、山種美術館様について私は全く知りませんでした。
ですが、私はプロデューサーという立場として、幅広い分野を知っていないといけません。もちろん、あらゆる分野に詳しくなるには人生は短すぎる訳ですが、最低限、一般常識レベルの知識が無いと、目の前のチャンスを見過ごしてしまう可能性があります。
ゲームプロデューサーを目指す人には、是非食わず嫌いせず色んなことを知っていただきたいと思っています。
また、コロナ禍において日本各地の美術館や博物館等が経営的に厳しい中、こういったポップカルチャーとのコラボレーションによって、収益の拡大が実現出来ると思っています。
ゲームクリエーターにとっても非常に可能性のある業界という事を知って欲しいです。
山崎
今回のゲームをきっかけに、美術館事業の拡大に関する他の切り口やアイデアを思いついた方がいらしたら是非お問い合わせいただければと思います。
Twitterのフォロワーが15万人もいる美術館は日本では数少ない存在だと思いますし、
一緒に何かを行う事で双方の広報的な側面でもWin-Winの関係になれると思います。
ゲーム会社様の中で、常設でゲームの世界観などを展示できるスペースをお持ちの会社様は少ないと思いますが、美術館とコラボすれば実際の展示スペースを活用していただくこともできます。また、グッズやイベントのコラボはゲーム会社的にもメリットが大きいと思います。
そういったところも検討材料にしていただければうれしいですね。
――ありがとうございました!
■各社様リンク
株式会社AKALI
【Website】 https://www.akali.co.jp/
【Twitter】 https://twitter.com/AKALI0110
山種美術館
【Website】 https://www.yamatane-museum.jp/
【Twitter】 https://twitter.com/yamatanemuseum
株式会社ジー・モード
【Website】 https://gmodecorp.com
【Twitter】 https://twitter.com/GmodePR
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