シナリオ制作のプロフェッショナル、株式会社ジンテーゼ北島様に、これまでのご経歴と会社の特徴、シナリオ制作において心掛けている点についてお伺いしました。
東京都世田谷区に本社を置くシナリオ制作会社、株式会社ジンテーゼ。『428~封鎖された渋谷で~』や、『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス』等ビッグタイトルのゲームシナリオ制作を手掛けており、同社の代表を務める北島行徳様は、漫画家、小説家、ノンフィクションライター、ゲームシナリオライターといった作家としての顔だけでなく、障害者プロレス団体「ドッグレッグス」の旗揚げを行うなど精力的に活動をされています。
これまで作家として多くの受賞歴を持ち、輝かしい経歴を歩んできた背景とは裏腹に、そこには知られざる苦労と思い、そして現在の北島様の原点となる体験がありました。
目次
株式会社ジンテーゼ代表、北島行徳様がシナリオ制作を手掛けるまで
――まずは北島様のご経歴について教えて下さい。
株式会社ジンテーゼ代表の北島行徳です。
元々漫画を読んだり描いたりする事が好きだったので、20代前半のころまでは漫画家を目指していました。少年ジャンプで新人賞や手塚賞を取ったのですが、当時のジャンプは『キャプテン翼』『北斗の拳』『Dr.スランプ』『キン肉マン』といった作品が連載されている黄金時代で、本誌デビューまでのハードルは高く、連載ネームを作ってはやり直しの繰り返しが1年ほど続きました。
〇株式会社ジンテーゼ代表取締役 北島行徳 様
当時アルバイトをしながら生計を立てつつ、障がい者向けのボランティア活動も同時に行っており、その活動が『毎日中学生新聞』の編集長の目に留まったことで、「ウチで記者をやってみないか?」という話を頂きました。漫画家と同じぐらい新聞記者の仕事にも興味があったのでやってみることにしました。日本全国の小中学校を取材したり、学校ニュースを書いたり、一般のニュースを中学生向けに分かりやすくした記事を書いたりする仕事を29歳位までやっていました。
――アルバイトをしながら障がい者向けボランティア活動を行っていたのはどのような理由でしたか?
障がい者向けボランティア活動を始めるに至ったきっかけは私の学生時代にさかのぼるのですが、実は、私は高校を中退しています。
強豪校のスポーツ推薦(ハンドボール)で入学したのですが、そのクラブが昭和の体育会系で、体罰やいじめが頻繁に起こっていたのです。
私自身は推薦入学だったので優遇されていた事もあり、特に被害は受けなかったのですが、一般で入ってきた同級生がひどい暴力を受けて……。見るに見かねて、私がその内部事情を学校側に告発したところ、かなりの大ごとになってしまい、ハンドボール部が活動中止になってしまいました。
その後、コーチに呼び出されて「君はハンドボールやる為に学校に入学したのに、部活を売るようなマネをするのか!」と言われ、さらにはその友達にも「余計なことはしないでほしい」と恨まれてしまいました。
友達を助けたいと思って行動したのですが、それが裏目に出てしまったのがショックで……。学校に通うこともできなくなり、引きこもりになってしまいました。
――とてもおつらい経験をされたのですね。
そうですね、今思えばもう少し友達と話し合うなどの対処法はあったかもしれませんが、当時の自分は“何とかしなければ!”の一心でしたので。
“なぜボランティア活動をするに至ったのか?”という点についてですが、当時引きこもっていた時に、日本テレビ系列の長時間番組“24時間テレビ”の第1回が放送されました。番組内には障がい者向けのボランティア活動の特集がありまして、それを見た時に非常に感銘を受けました。障がい者の方のために、自らが手となり足となる姿を見て、「こんな自分にも何か人を助けることが出来るのではないか」と思ったのです。高校を辞めて1年間ずっと引きこもり、自分の事が相当嫌いになっていた時期だったので、何とか自信を取り戻したいと思って参加したのが初めのきっかけでした。
――ゲームシナリオライターのお仕事をされるに至った経緯についても教えて下さい。
ボランティア活動の延長から、障がい者プロレス団体“ドッグレックス”を旗揚げし、自分も”アンチテーゼ北島”のリングネームでプロレス活動を行うようになりました。その活動をまとめた書籍『無敵のハンディキャップ』(文藝春秋)を出版した所、第20回講談社ノンフィクション賞を受賞したので、新聞社を辞めてフリーでノンフィクション関連の仕事をする事になりました。
〇障害者プロレス団体「ドッグレッグス」の活動を追った長編ドキュメンタリー映画 『DOGLEGS』
そのうちにゲーム会社のチュンソフト(当時)さんからゲームシナリオ執筆のお話がきました。
『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』の開発にあたり、学校の現状に色々詳しく、かつ物語を作れる人を探していたようです。初めてのゲームシナリオの仕事だったのですが、好評だったようで、それ以降もチュンソフトさんから仕事をいただくようになります。このころからゲームシナリオが仕事の中心になっていきます。
――ゲーム、アニメ、マンガ、小説、映画など、数多くの脚本を手掛けてこられたと思います。それぞれの媒体によって、シナリオ作りはどのように変わっていきますか?
物語を作るという根本的なモノは変わりませんが、観客への見せ方の部分が違ったりするので、シナリオの書き方も変わってきます。ドラマとアニメでも違う部分はあるのですが、特にゲームはジャンルによって表現方法が変わってきます。例えばアドベンチャーゲームによく使用される表現方法として”立ち絵”があります。この場合、大きな動きの芝居はできず、数パターンの表情だけで、シーンを成立させなければなりません。ドラマやアニメと比べると、できる芝居に制限があるので、ゲームシナリオを書く場合はゲームならでは演出を把握している必要がでてきます。
――北島様ご自身も、マンガ、新聞、ノンフィクション、ゲームシナリオと扱う媒体が変わった時は大変でしたか?
どのジャンルでもはじめは苦労しました。特に文章の基本となる部分は、毎日中学生新聞で記事を書いたときに一番鍛えられと思っています。とにかく1行1行を簡潔に、肝心な情報から先に書いていく。読者に大切な事をどう整理して伝えるのか。とにかく書くことで鍛錬して言ったのですが、当時は、パソコンはおろかワープロも全社員に普及される時代ではなかったので、一つの記事を何度も書き直してやっと校了するという事を何年もやっていました。この経験が今でも自分を支えてくれています。
しかし、それはあくまで新聞記事であって、小説やゲームといった物語は構成がまるで違います。簡潔にわかりやすくだけではなく、伏線を張ったりするなど、構成を複雑にすることが必要になります。
今までの経験をミックスすることで、簡潔でわかりやすく、それでいて何かしらのフックがある。そんな物語が作れるようになったんだと思います。
シナリオ制作会社”株式会社ジンテーゼ”が手掛ける、シナリオ制作の仕事
――会社設立の経緯について教えてください。
会社を立てた理由は、ゲームシナリオの仕事を沢山いただくようになり、1人ではさばき切れなくなったのが理由です。当時はコンシューマーゲームの依頼がメインだったのですが、1つの案件に対して半年近く携わることが多く、その間に新たな仕事の話がいくつか入ってくると、一人でやる以上は断るケースもでてきて……。その機会損失を防ぎたいと思ったのが理由ですね。
一時期、日本映画学校で講師をしていたのですが、そこの生徒たちの卒業後に「一緒に働かないか」と声をかけました。それから10年。ビッグタイトルのゲームシナリオを多数手掛けているという点が、弊社の圧倒的な強みだと思っています。在籍しているスタッフは常時4、5人いますが、受けた仕事に関しては私が必ずタッチしています。なのでクオリティも担保出来ています。
〇北島様がシナリオ制作を手掛けたiOS/Android用アプリ『エゴエフェクト』(2021年配信予定)
――ジンテーゼとして得意としている物語のジャンルなどはありますか?
ファンタジーでも異世界系でもRPGでも、物語の構成自体はそこまで大きく変わらないので、基本的にはどんなジャンルでも制作できます。あえて言うのならミステリー系が得意としています。
ミステリー系やサスペンス系のシナリオ制作って、需要は多いけれども書ける人がそんなに多くないです。そもそもトリック考えるスキルがあれば、自分でミステリー小説書けばよいわけですし。なので、そのジャンルを得意にすることで重宝されるということはあります。
――お仕事の流れとしては、“企画から関わりシナリオを制作する”、“企画を基にシナリオを制作する”、“既存のシナリオを修正する”のどれが一番多いですか?
“企画から関わりシナリオを制作する”と“企画を基にシナリオを制作する”の半々くらいだと思います。
“企画を基にシナリオを制作する”の方法でシナリオから制作する場合でも、企画自体は最初ぼんやりしている事が多いです。“スマホゲームで若い女の子が主人公のファンタジーもの”という軽い縛りで、世界観、キャラクター、構成、シナリオ制作を依頼されるパターンが多いですね。
がっちり全体のプロットまで決まっていて、これをシナリオにしてくださいというパターンはほぼありません。
一番慎重にやらなければいけない依頼が既存のシナリオを修正する作業です。
これに関しては企画側のプロデューサーやディレクターと馬が合わないとあまり上手くいかないというのが経験則としてあります。
完成したものを直したいという事は、このシナリオでは面白くないと思っているケースがほとんどだと思うのですが、それに対して「ジンテーゼならこういうシナリオにします!」といった形で直しを入れると「それは面白くない!」と言われることがあるんです。完成したシナリオの方向性が間違っているから、大きく直さなければ面白くならないと説明しても信じてもらえない。だったら修正を外注なんてせずに自分たちで直せばいいのにと思います。
――実際どんな声を頂いたのですか?
「『ファイナルファンタジー』みたいな話が作りたいのに今のシナリオはそうなってない!」という依頼があったとしますよね。昔の名作のようなストーリーを作りたいと。正直、こんな発想をしている時点で面白い話にはならないと思うんですよ。
僕らも既存のゲームはある程度参考にしますが、シナリオを書く際には、“流行り”や”時代の先取り”を意識します。同じ様な話が過去の名作以上に面白くなるわけがないですから。
ユーザーの中である程度の既視感はありつつ、“この物語は少し他と違うかもしれないぞ?”と思わせるフックをいかに作るかがシナリオ作りの中で重要になります。
シナリオ直しの仕事を受けるときは、プロデューサーにしっかりと確認をとるようにしています。面白く修正できればそれでよし、ではすまないケースが多々あるので。
――企画からシナリオを制作したり、企画を基にシナリオを制作したりする時に意識することはなんですか?
物語を作るときに僕らが真っ先に考えるのは、お客さんが喜ぶ作品を作るということです。どんな話ならお客さんが感動するか。笑ってくれるか。泣いてくれるか。考えることはそれだけですね。
これは絶対に面白いという確信が得られるまでは何度も推敲しますし、スタッフにも相当相談します。
――ゲームかシナリオ作りで気を付けている部分はどのような点ですか?
シナリオがここまで進んだときユーザーの感情はこうなっている。感情の変化を想像しながら話を書くことです。
ネットでの感想も参考にしています。あまり鵜吞みにするのはよくないんですが、その声が理由もないバッシングなのか、それとも妥当な判断で批判されているのか、それをちゃんと見極めた上で作品にフィードバックすることもあります。
――ユーザーからの声にはどのような声がありましたか?
あくまで一例ですが、「このキャラはこんなこと言わない」、「キャラが登場する頻度がバラバラ」といった声がありましたね。やはり物語の書き手としても愛着が出てくるキャラクターは必ず存在します。それが遊んでいるユーザーにとっては贔屓に感じてしまう事もあります。キャラクターに対して作り手が感情移入する事は、受け手は想定していませんし、物語の裏に人為的なものがあるとは考えません。受け手が没頭してくれているからこそ、俯瞰的に見ながら物語を作る必要があります。
株式会社ジンテーゼの今後、そしてシナリオライターに向けて一言
――ジンテーゼとして今後挑戦したいこと等はありますか?
シナリオの企画段階から携わっていくというのは、会社を設立した当初から目標にしていた事で、現在はそれを達成することが出来ている。であれば、シナリオ制作会社としてゲームに限らず色んな媒体を活用する事で会社から発信できるコンテンツを作っていきたいと思っています。
――シナリオライターを志す方へ最後に一言お願いします。
ゲームのシナリオライターという仕事が一般化され、特にソシャゲが主流になっているこの時代はある意味案件が多く参入ハードルも下がってきています。
ただ、企画からシナリオ制作に関わるようになったり、自分が書きたい物語を自由に書けるようになるには、かなりのハードルを何個も乗り越えないとなりません。自分に相当厳しくある必要があるりでしょう。
でも、絶対不可能というわけではなく、自分が書いたものを何度も推敲する、読み手の事を第一に考えるという事を重ねる事で、必ずその道は開けてくるのではないかと思います。
自分がそうであった様に、漫画家、新聞記者、ノンフィクションライター、小説家、プロレスラー、ゲームシナリオライター等様々な経験が、点から線になって結ばれる瞬間が来ます。
そのチャンスを逃さない為に出来る事は、月並みかもしれませんが、とにかく量をこなす事だと思います。このシナリオはどうすればもっと面白く出来るのかという部分を妥協せずに、考えて、書いて、考えて、書いてを繰り返す事で必ず得るものがあると思います。
どんな経験でも糧にして、日々鍛錬を怠らない。そんなシナリオライターになってほしいと思います。
ーありがとうございました。
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